研究題目:中国帰国者の生活支援に関する研究
教諭 河村 舟二 ・講師 王 鋭
1.はじめに
本研究はこれまでの官主導の帰国者自立支援のあり方を検証し、人権尊重の観点にたって、人間生活の原点の一つである「家族」というキーワードをもって、中国帰国者の自立支援方法を考えるものである。なお、支援の方途については、元中国残留日本人孤児・婦人及びその関係者たちの生活実態を調査した上、本人たちが望んでいる支援方法であり、実際の彼らの生活実態に合った効果的な支援方法を提言したい。
研究にあたっては、主に
2.進めてきた作業について
○2004年10月から12月まで、研究対象者の設定作業を行った。すなわち@研究対象者の名簿をつくる。A集約した情報から基礎データをつくるであった。内容は具体的な調査分析のための世帯構成、在留資格の状況、住居の状況、就労状況、国籍の取得状況、中国における出身地の調査を行った。B2005年1月から2月にかけて、研究対象者との交流を企画し、2005年2月13日に「中国語母語者交流会」を主催した。まず、2005年1月31日交流会の準備委員会の招集をし準備委員6名を選び、2005年2月10日交流会の事前準備の実施をし交流会実施に臨んだ。
○2005年2月13日には
○
2005年2月25日、地域在住市民として、日常生活における意見、考え方を市政に伝えようということで開かれた、「
1.病気になったとき、病院でつかう専門的な用語がわからないので通訳が欲しい。2.市役所の諸手続き、問い合わせが言葉の問題で、できないということがないよう、せめて市内在住外国人の母語表記、場合によっては通訳派遣を考えてほしい。3.自然災害時など、急を要するとき、外国籍市民への情報提供、救済支援システムを構築してもらいたい。4.外国籍市民の子どもが多く在籍する保育所などに対して、定時的に言葉や文化がわかる方に巡回してほしい。5.外国籍市民に対して専門の相談窓口を開設してほしい。(各言語に対応する)6.全体的な要望 @外国籍市民の市政に対する意見を反映するため、外国籍市民の地方参政権を認めてほしい。A各小・中学校に在籍している外国籍、帰国者の子どもたちにとって母語が話せ、その国の文化を知る先生は、非常に貴重な存在であり、その先生方の就労条件の安定と、より一層の充実をしてほしい。B外国人の人権保障を条例化する都市があるが、市として、地域社会に向けた外国籍市民に関する基本的な考え方を示す条例をつくってほしい。C外国籍市民に向けての支援政策は、実際には外国籍市民の中にあまり知らされていない、十分な広報に力を入れてもらいたい。D北朝鮮における拉致問題で拉致披害者に対して、各地方自治体がとった政策は、非常に手厚いものであった。我々中国残留孤児・婦人においても日本が犯したかつての政策の被害者であり、本来おくるべき人生を大きく、ねじ曲げられたという事実において大きな違いはない。生活保護制度など、規制の枠にとらわれず、市として独自の中国残留孤児・婦人支援の施策をしてほしい。6.我々中国残留孤児・婦人は、帰国後、生活保護制度に頼って生活している家族が多い。生活保護制度においては、死んだときに永眠できる墓地をもつこともできず、日本での身寄りもない。このままでは死んだ後ですら安心できない。せめて、市で私たちの共同墓地(埋葬地)をつくってもらえないか。7.外国籍市民の支援のために、何よりも外国籍市民の生活実態を調査し、明らかにしてほしい。以上であった。
○情報誌の発行
2005年3月から、研究対象者になる101世帯の方たちに対して、月一回という形で日常生活に役立つ情報提供しようと、中国語版情報誌「中国語母語者会通信」を発行することとし、その準備作業を進めた。2005年5月に初刊号を発行した。現在も、月一回のペースで通信を発行している。
○2005年7月末から8月上旬に、研究対象者たちへの学習支援上に発生した諸問題を集約して、文化的な生活習慣、意識的な価値観の形成に最も影響とする、かつての成長過程における生活環境・文化習慣の形成形態を調べるため、中国に渡って現地調査を実施することにした。今回の調査実施地は、研究目的にあわせて設定したもので、現代の中国を代表とする首都、北京、そして、かつての帰国者たちの生育地域、中国東北地域の長春・徳恵・延吉・汪清で現地調査を行った。また、「大地の子を育てて〜中日友好楼の日々」としてNHK特集(2004.12.5)で取り上げられた長春市の中日友好楼を訪ね、放送にあった青山さんの養母の李さんたちにもお会いしてきた。
○2005年6月、もっと具体的に学習者の状況を把握するため、小さい子どもをもつ育児負担が重い学習者世帯に、アンケート調査を行った。その調査の結果をみてみると、成人学習における学習環境の提供要素はなにか。学習支援上の考慮事項は何か。などが明らかになり、よい立証資料を手に入れることができた。
3.今後の取り組み
文献調査
厚生労働省社会・援護局から(平成7年、平成12年、平成17年)「中国帰国者生活実態調査」の題目で調査結果が発表されている。
これらの公的機関から出されている調査内容に分析と考察を加え、結果を総括することによって、これまで官主導に行われてきた帰国者自立支援の趣旨の問題点などが明らかになると考えられる。同時に、各時期にまとめられた調査結果をうけて、いったいどのような帰国者支援政策が行われたのかを整理していきたい。
質的調査
厚生労働省をはじめ、官主導に行った調査結果や支援政策理論をふまえて、本研究では人権尊重・家族などの研究視点をもって、再検討を行う。具体的には、日々帰国者たちの学習支援からできた信頼関係や母語を共通の利便性を生かして、地域に生活している帰国者たちの悩み、生活実態、帰国後の生活実態などをモデル家族を通して調査する。そして、公的調査と違ったもう一つ角度で、帰国者たちの立場から国の帰国者の支援政策論を再検証する。以下、作業の中で明らかになったことや今後すべきことをいくつかあげてみる。
○厚生労働省主体の支援体制では、残留孤児本人世帯のみ支援対象とする方針なので、親の世帯から子の世帯へ支援する実態がある。文化的な生活を維持するため、もらった、わずかな生活保護費を、子へ、孫へ支援するために使われているケースがある。
○子ども世帯の雇用の不安定さが原因となり、経済的要因から生活苦が生じている。常に余裕のない追われた生活なので、子ども(孫)の世話を、親に頼むこととなり、連鎖的に親世代の日本語などの学習時間を奪い、身体的な負担をも負わせている実態がある。
○国がしてきた、元残留孤児・婦人本人のみへの支援姿勢によって、家族単位で帰国を果たした帰国者たちにもたらしてきたものはなにか?
○帰国者たちに向けて、日本の文化・習慣等を理解させる学習機会を提供して、生活の質を向上させる目的で、各分野の専門知識をもつ専門家を招き、定期的に「在日の生活知識の学習講座」を開く予定。
なお、できれば定期的に帰国者同士の交流会も主催したいと考えている。
帰国者の自立支援の視点にたって、自主的に仲間を集めていただき、そこで、我々の現地調査から得られた情報を広く伝え、より多くの方に情報を共有してもらい、みんなの知恵を集め、適切な自立支援の方法を考案するための「帰国者の生活文化を理解する報告会」を行う予定。
4.おわりに
地域社会で地域住民・市民として生きていく帰国者たちへの支援の中身は、「人権尊重」、「法治社会に於ける平等な生活権利をもつ」ということを大原則として行うべきである。そのためには、互いの違いを認識し、相互理解を図る場を設け、地域住民の人々を巻き込んだ形で、共に考え、共に悩み、共存、共生社会を構築する必要がある。その基礎材料となる研究に仕上げたい。
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